バスキュラーアクセス(VA)手術について

バスキュラーアクセス(VA)とは

血液透析では、1分間に200ml以上の大量の血液を体外に取り出す必要があります。 しかし、通常の静脈は血流量が少なく、また繰り返し針を刺すことには不向きです。
一方、動脈は血流量は多いものの、体の深い部分にあり、直接針を刺すのは危険であり、神経も近いのでとても痛いです。そこで、大量の血液を体外に取り出すための手術を行う必要があります。
大量の血液を体外に取り出すために身体に造設するものの総称をバスキュラーアクセス(VA)といいます。

バスキュラーアクセスには
様々な種類があります

バスキュラーアクセスには5種類があり、身体の状態に最も適切なバスキュラーアクセスを選択します。

バスキュラーアクセスは、血液透析を安全かつ効率的に行うための「命綱」とも言える、なくてはならない存在です。
当院では、以下の手術を実施しています。

①自己血管内シャント(Arteriovenous Fistula, AVF)

自己血管内シャントは、患者さん自身の動脈と静脈を直接つなぎ合わせる手術で作成します。動脈の血流が静脈にバイパスすることで、静脈が太く発達し、透析に必要な血流量が得られるようになります。
日本では、血液透析患者の約90%が自己血管内シャントを利用しています。

■利点

  • 自分の血管を使用するため、感染に強い。
  • 5つの種類の中で最も長期間使用できる可能性が高い。

■欠点

  • 血管が十分に発達するまでに数週間から数ヶ月かかります。
  • 自己血管の状態によっては手術が困難な場合があります。
  • 狭窄(血管が細くなる)ことがあり、VAIVTを実施する必要が出てくることもあります。

②人工血管内シャント(Arteriovenous Graft, AVG)

人工血管内シャントは、患者さん自身の血管が細いなどの理由で自己血管内シャント(AVF)の作成が難しい場合に選択します。
生体適合性の高い素材でできた直径5~6mm程度のチューブ状の人工血管を、動脈と静脈の間に埋め込み、つなぎ合わせます。

当院では、e-PTFE※1という素材の人工血管を使用します。
※1 e-PTFEはエコー画像に映るので、エコーによる定期検査や放射線被ばくをしないエコー下VAIVTが実施可能です。

■利点

  • AVGは、比較的早期(手術後2~3週間程度)から使用を開始できます。

■欠点

  • 自己血管に比べて感染や閉塞を起こしやすい傾向があります。
  • 自己血管内シャント(AVF)よりも寿命が短い場合があります。
  • 狭窄(血管が細くなる)ことがあり、VAIVTを実施する必要が出てくることもあります。

③動脈表在化

動脈は血流量が多く、透析に必要な血液の量も簡単に確保できます。しかし、動脈は筋肉の下を走っているため、針を刺したり止血したりといったことが簡単にはできません。そこで、動脈の位置を皮膚に近いところまで移動して、針を刺しやすくしようというのが動脈表在化です。動脈表在化では血液を抜き出すのは動脈から行いますが、戻すのは静脈となります。

■利点

  • 心臓への負担が自己血管内シャントや人工血管内シャントに比べて少ないので、心臓の機能が低下している方に適応します。
  • 自己血管内シャント(AVF)や人工血管内シャント(AVG)を作成できる血管がない方に使用されます。

■欠点

  • 血腫ができやすい可能性があります。
  • 止血に時間がかかる場合があります。
  • 血液を戻すのに十分な太さの静脈が必要です。
  • 何度も針を刺すことで動脈瘤ができやすくなります。

④長期留置カテーテル

長期留置カテーテルは、血液透析を行う際に、首や胸、脚の付け根などの太い静脈に挿入し、長期間留置して使用します。このカテーテルを使用して、血液を体外に取り出し、透析器で浄化した後に体内に戻します。短期留置カテーテルにはないカフがついていて、抜けにくい構造になっています。

長期留置カテーテルは、主に以下のような場合に選択します。

  • 自己血管内シャント(AVF)や人工血管内シャント(AVG)の作成が困難な場合。
  • 血管が細いなど、血管の条件が良くないためにシャントを作成しても長持ちしない場合。
  • シャントは作成してから使用できるまで数週間から数ヶ月かかることがあるため、その間の透析治療が必要な場合にも用いられます。
  • さらに、心臓機能が低下している方や、全身状態が不安定でシャント手術のリスクが高いと判断される場合も、長期留置カテーテルが適応となることがあります。

■利点

  • 自己血管内シャント、人工血管内シャント、動脈表在化は穿刺をしますが、カテーテルは穿刺をしないので痛みがありません。
  • カテーテルを挿入したらすぐに使用可能です。

■欠点

  • カテーテルを入れている部位や患者さんの状態によっては入浴出来ない場合があります。
  • カテーテル先端が血栓などによって詰まりやすいです。
  • 自己血管内シャント、人工血管内シャント、動脈表在化よりも感染リスクが高いです。

⑤短期留置カテーテル

短期留置カテーテルは、透析療法を緊急的に開始しなければならないときに一時的に使用されます。首や足の付け根の太い静脈にカテーテルを入れ、カテーテルから血液をとり出し、透析器を通って浄化された血液を身体へと戻します。

基本的に④長期留置カテーテルと同じですが、短期留置カテーテルにはカフがついていないので、長期留置カテーテルよりも抜けやすく、感染リスクが高いです。
なので、一時的な緊急処置にのみ使用します。